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371号(2005年10月1日発行)より抜粋

「夢・桃中軒牛右衛門の」を観て

聳え立つ熊のような大男。写真に焼き付けられた宮崎滔天は、そんな形容がぴったりくる。セピア色の古い写真には到底収まりきれない圧倒的な存在感。それは、孫文らと写った一枚においても群を抜いている。
 滔天の姿を見ていると、かの梁山泊に集った「水滸伝」の英雄豪傑もかくあろうかと想像させるものがある。肥後熊本の名門士族に生まれ、西南戦争で西郷隆盛とともに討ち死にした兄を持ち、自由民権運動とともに成長した滔天は、巨漢であっただけでなく、その生き様もまた破天荒であった。初演から二十九年。今回の上演で滔天を舞台で演じるのは役者冥利でもあろうが、それだけに大きなプレッシャーもあったはずだ。
 津嘉山正種の病気休演で、急遽この役を演じることになった山本龍二は、際立った個性という点では宮崎滔天という人物にぴったりである。もちろん、滔天そのもののイメージとは違うが、細部を似せようとせず、役者山本龍二の個性を生かしながら、滔天の人間像をていねいに創造しようとしていたように思う。
 “新劇俳優”というカッコ付きの窮屈さとは無縁な山本独特の愛敬がまた精彩を放っている。一歩間違えるとアクの強さが鼻についてしまうが、この作品にかんしては、独特のキャラクターが自然と宮崎滔天の本質と共鳴し合って、観る者を納得させる。大言壮語しながらも、内面のどこかで自信を失いがちな一面。そんなところも本牧座で山野史人演じる桃中軒雲右衛門に弟入りを志願する場面によく表れている。本人が一番気にしていたであろう浪花節も、あくまで自己流であるところがまた愛敬であり、おそらくは牛右衛門を名乗った滔天もこうであっただろうと想わせる。  思い起こせば、「水滸伝」も語り物=講釈によって民衆の間に広がっていったのだ。自由民権の志士から、中国革命へとのめり込んでいった滔天が、民衆にそれを伝えんとして、千人余りの人々が聞き取れる声量を持っていた雲右衛門に注目したのは、ある意味当然の選択であった。
 那須佐代子演じる妻、槌がまた印象深い名演である。冒頭で通路から現れ、劇中の進行役、狂言回し的な役を担うが、どちらかといえば硬質でストイックな雰囲気を持つこの女優を近くから見る機会が少なかったので新鮮であった。立居、風情はまさに明治の良妻賢母そのものだが、舞台が進行するにつれて、シンと情熱の強い槌の存在がどんどん大きくなり、結局、彼女の心と目を通して見た滔天像を浮かび上がらせるという作者の企みが浮かび上がってくる。そしてもう一人、好対照な姉の波(松熊明子)の存在が舞台に華やぎを与えている 。そういう意味で、この芝居の男たちは、実は女性の持つ糸に操られているのではないか、そんな風にも見えてくる。
 孫文、宋教仁、黄興、秋瑾ら東京に集った中国の革命家たちがこの舞台には登場する。彼らはある意味では滔天に比べると遥かにリアリストであったが、それでも毛沢東ら後世の革命家たちに比べれば詰めの甘さがあった。高野さんと呼ばれた孫文の描き方にもそんな一面をうかがわせる場面がある。滔天と彼らには、このころはまだ水滸伝の豪傑たちに通じるロマンティックな共同幻想があったのだろう。だからこそ、彼らは人間性豊に描かれており、孫文を演じた村田則男をはじめとする役者たちはそれによく応えていた。
 孫文は最晩年、神戸で大アジア主義を唱え、帝国主義日本との決別を示唆した。滔天はその演説を聞くことなく先立っている。現代中国でも孫文は革命の父として大きな尊敬を集める存在であるが、孫文らと日本の志士たちとの交友については、ほとんど一般には知られていないようだ。滔天らのアジアへの思いはその後歪められ、歴史に不幸な大きな傷を残した。宮本研が存命であったなら、近隣アジア諸国との関係に苦しむ今の日本をどう眺めたであろうか?
 「阿Q外傳」にも登場する女性革命家、秋瑾はこの作品では出番は少ないが、彼女は故郷に二人の幼子を残していた。先年筆者が紹興を訪れたとき、彼女の故居を訪ねる機会があったが、同郷の大作家、魯迅の生家に数多くの観光客が訪れていたのとは対照的に、秋瑾故居は訪れる人もほとんどなく、ひっそりと静まり返っていた。薄暗い部屋に展示されていたゆかりの品の中で、最初に目に入ったのが、和服姿で日本刀を手にした有名な肖像写真である。
 彼女が処刑された場所には今、記念碑が立っているが、車が増えて付近の交通渋滞がひどく、撤去する話が一時出たほどだという。「裏切り者はこの太刀を浴びよ」と叫ぶほどの激しい革命への情熱で知られた秋瑾だが、一世紀の歳月は、彼女に対する中国人の記憶と関心をも薄れさせたのだろうか。
【共同通信社文化部 石山俊彦】

「明日」演劇が与えてくれる想像力!

 今年は戦後六十年で多くの戦争を考えるテーマの公演が多い中でも私の想像力に訴える秀作でありました。長崎の三浦泰一郎、ツイ夫婦の次女ヤエと中川庄司の婚礼が三浦家で行われようとしている。空襲警報が日々の習慣となっている中、若い二人の門出を祝おうと人々は思い思いの日常を持って集い、それぞれの「明日」(八月九日)を信じて懸命に生きている…戦時中の描写が素晴らしい。淡い恋も、家族愛も、戦時中だとはいえ日常生活が存在していた、そして彼らにはまだ明日何が起ころうとしているのか知る由もないのだから…。
 八月六日に朝日ホールで公演された地人会の朗読劇『この子たちの夏一九四五・ヒロシマ ナガサキ』はリアルな体験記を朗読という形で役者の方々が語る手法で観客の想像力を掻きたて、戦争の悲惨さを伝えるのに成功していたが、『明日』は違った形の想像力を必要とし素晴らしい仕上がりでした。そして、どちらも心が震えました。
 戦後生まれの私も四十四歳になり、年々強く感じることは我々が未来の仲間に残せる最大の遺産は平和だということです。そのために何をなさなければいけないのか…想像力を培って判断していかないと大変なことになってしまう気がしております。
この演目の持つ意味の大きさを感じ、私たち日本人だけが経験した原爆という悪魔の兵器をもっと認識しなければいけないと感じ、多くの若者にぜひ観てもらいたい演目です。
 それは生きている幸せを感じ!生きたくても生きることの出来なかった人々の分もしっかりと未来に責任を持つということを考えるきっかけに必ずなるのだから。

 八月十一日〜十七日、紀伊國屋ホールにおいて「六十年目の夏―長崎、知覧、神戸」として青年座『明日―一九四五年八月八日・長崎』、東演『朗読劇 月光の夏』、関西芸術座『少年H』の三作品を上演。又十五日にはシンポジウム「六十年目の夏、今、そして未来…」を行う。
【プラス・ミリ代表 住友博昭】

水上勉追悼公演のこと

『はなれ瞽女おりん』が“有馬稲子と五つの楽器による語り”と副題され、命日の九月八日をはさんで六日間。「水上勉追悼公演」として上演された。うれしいことである。
 これは水上さんの生れ在所若狭にかかわる愛着のこもった作品だが、雑誌、単行本から戯曲として自立し、いま一人語りとなった。一座から落されてひとり旅の瞽女と下駄屋に身をやっした脱走兵との出会い、兄と妹の隠れ蓑の幸せな道行もつかの間、別れが来る。夢のような再会の場所が若狭だ。女と男の声の味わいの使い分けや「あにさま…」と手を宙に差しのべる動きなど、観おわったとき、むしろ一人芝居と呼びたいものだった。おりんの姿は愛らしく哀切なだけでなく、水上さんの「こういう人を野の聖というのではないか」という全集あとがきの言葉を、そうか、そうなのかと感じさせる瞬間もあり、原作、戯曲なない月光のなかの裸身の語り部分もあって興味つきないものだった。
 また今回は、五人の楽器奏者がおりんと共に舞台空間を占めるという新しい試みである。三味線の弾き語りがこの「売芸盲女」のなりわいにだから、多少の危惧をもった。しかしそれは一人語りを助けるのではなく、これままた“一座”であり、東洋的、仏教的な水上文学世界を深める要素をもつと感じさせた。「ピアノとマリンバによる梵鐘の響き」を最初にイメージしたと作曲者(和田薫)は書いている。かつて「西脇(順三郎)さんが、あなたの文学は地球の梵鐘だと言ってくれたよ」とうれしそうに語った、あの時の水上さんの笑顔を思い出し、感慨深いものがあった。お目にかかってから四十余年有形無形の多くのものを頂いた。一年前、亡くなった時、幾つかの追悼文を書かせてもらったが、それ以後、何一つしていない。ほかにも催しの企画はあると聞くが、演出(鈴木完一郎)、製作(水谷内助義)とせ青年座の方々の力で、まず、芝居の大好きだった水上さんの追悼の時間をもつことができたのを感謝したい。
【岩波 剛】

劇団ニュース

退団
〔映画放送〕緒形直人7/31付。
退社
〔映画放送〕高橋一夫8/31付。
結婚
〔演技部〕6/23桐本琢也が中村由佳さんと。
〔演技部〕6/27五味多恵子が鈴木弘秋さんと。
誕生
〔演技部〕8/31山崎秀樹に長男慶一郎ちゃんと次男晶太郎ちゃん。
訃報
〔演技部〕8/2嶋崎伸夫の御尊父嶋崎俊平さん。
舞台公演の外部出演
かとうかずこ
「浮草」9/2〜9/29・明治座。
もたい陽子
「クーランガッタ・スクランブル」10/20〜10/23・新国立劇場小劇場。
原口優子
「帰去来―赤トンボぶんと飛んだ―」10/5〜10/9・紀伊國屋サザンシアター。
嶋崎伸夫、小柳洋子、黒崎照
「ヒューマン・ダイナモ〜人間発動機、野口英世」10/29〜11/3・紀伊國屋サザンシアター。
岩崎良美
「42丁目のキングダム」11/17〜11/27・アートスフィア。
石井淳、松川真也、上杉二美、野沢由香里、椿真由美、佐野美幸、田村茉紗子、原口優子、山本美也子
「仏田摩耶山開帳」11/26〜11/27・ルネッサながと。
椿真由美
「サド侯爵夫人」11/4〜11/13・東京都国立博物館。
東恵美子
「東恵美子が語る〜芝居の面白さ・人生の楽しさ〜」11/18・浜田山会館。
片岡富枝
「パウダァ〜おしろい〜」12/6〜12/11・兵庫県立芸術文化センター中ホール、12/14〜12/18・紀伊國屋ホール。
増子倭文江
「10ヶ月〜The Last 10months〜」12/15〜12/25・俳優座劇場。
田島俊弥
「四谷怪談」12/8〜12/11・ベルリン芸術祭劇場。
大家仁志、南谷朝子
「セパレート・テーブルズ」12/15〜12/23・スペース・ゼロ。
今井あずさ
「ツキコの月〜そして、タンゴ〜」10/5〜10/30・帝国劇場。
坂口進也
「美少女戦騎ソウルガーデン」/8/21〜8/23・内幸町ホール。
咲野俊介
「おーい!竜馬」10/6〜10/10・シアターサンモール。
名取幸政
「マイラストセレモニー」11/25〜11/29・麻布デイプラッツェ
渕野陽子
「あらゆるものからせみがうまれてしまえあらゆるものは脱け殻になってしまえ」12/17〜12/18・コア石響。